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Analog Synthesizer Lecture
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それでも私は倍音加算を信じる:

注:この原稿は2004年11月に無料誌のデジレコに掲載した物に加筆訂正を行っています。

注2:この題材は「Analog」の分類には入らないんですが、音作りという事でここに入れました。

 

 シンセの音源方式には色々あるが、倍音加算方式は可能性があるわりに日の目を見ない悲しい存在だ。この方式で作られる倍音の一つ一つは非常に単純なサイン波で、これを特定のセオリーで足して行くと音が変化して行く。ただし、倍音は時間と共に常に変化しており、しかも可聴範囲をカバーしようとすると大変な数の倍音コントロールが必要で、パラメーター数が膨大になる。

 ●倍音と倍音加算について詳しくはこちらを参照

 

 この方式を取り入れた機種としてはフェアライト、カワイ K5000S、SEIKO、カナダのアクセル等がある。更に試作で終わった物として80年代終わりに Akai のテスト機(一度だけ展示会に参考出品)、セイコーのシステム(デザインまで決まりかけていた)等がある。

 

セイコーのシンセの倍音加算機能追加ユニット

Seiko5


 

 ●セイコーのデジタルシンセのパンフレットはこちらを参照

 

 ●フェアライトの倍音加算に関するページはこちらを参照


 倍音加算方式はダメなのだろうか?これに対する私の回答は「技術者が勘違いしているからダメなだけで可能性は非常にある」である。


 最初に書いたように倍音加算で音を作ろうとすると膨大な量のパラメーターをいじらなければならない。たとえばフェアライト III の倍音加算ページでは1024倍音の各エンベロープと位相特性を自由に制御できる。しかし実際にはそれをゼロからグラフィック画面に描いて音を作る事はまず不可能だ。そこで FFT という機能を使い、サンプリング音を解析して倍音加算に置き換える方式(リシンセシス方式とか色々な言い方があると思う)が用いられる。


 フェアライト III の1024倍音だとシャープなシンバルの音でもかなり綺麗に再現できる。普通、倍音加算は打楽器音は再現できない事になっているが、フェアライトでは各倍音の位相角まで制御できるため、これが可能だったのだ。しかし、それを Edit して音を変えるとなると人間業ではほとんど不可能だ。


 こう考えると可能性は無いように思えるが、実はフェアライト IIx ではかなり面白い事が出来たのだ。IIx で32倍音までを各128段階、音が出てから消えるまでに128のセグメントに分けて音作りできるようになっており、これに FFT 解析機能が付いていた。これは今の DSP 能力からすれば実にチンケな機能なのだが、それが幸いし逆に面白い音が作れたのだ。例えばトランペットの音を解析すると、なんとなくトランペット風の面白い音が、ドラムの音を強引に解析させるとリズムのパターンに従って極端に倍音が変化する非常に面白い音が作れたのだ。


 上述の技術者の勘違いとは、サンプリングしたものをFFT 変換したら、元と同じ音がしなければならないという実に技術者的な発想なのだ。だが音楽家が欲しいのは面白い音ネタであって、高度な FFT 技術ではない。私は色々な技術者にこれを説明したが誰も聞く耳を持たなかった。技術者のプライドの方が優先されてしまった。元と同じ音が欲しければ FFT の解析なんてしないでサンプリングだけで良いのだ。参考までに以下に Fairlight IIx で FFT 変換してリシンセシスしたトランペットの音とマリンバの音を掲載しよう。

 

トランペットのサウンドを倍音加算によるリシンセシスで合成してみる。最初が元の音、次に同じフレーズをリシンセシスした音で聞く。

 

マリンバのサウンドを倍音加算によるリシンセシスで合成してみる。最初が元の音、次に同じフレーズをリシンセシスした音で聞く。

 

 というわけで、アイディアさえあれば FFT と、それを制御する簡素化されたアルゴリズムは考え出せるはずだ。どこかこれに果敢にチャレンジするメーカーが出て欲しい物だ(VSTi にそれっぽいのがあるので期待している)。



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