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アナログシーケンサーの応用5 :

🔴前回の説明で、System-700 の VCO ではなぜシーケンサーが上手く動かなかったのか?:

 今回は、番外編として前ページのビデオ説明の中で、System-700VCOLFO として使用した場合、なぜリズムが狂ってしまったのか?を説明したいと思います。

 かなりマニアックな内容になりますが、自分の持っている機材で思うような結果が得られない場合でも、工夫次第で解決策が見つかる例として読んでいただければと思います。

 動画の概要は以下のような感じです。



 前回のおさらいになりますが、アナログシーケンサーでスラーやスタッカートを作ろうとした場合、ゲートの長さを変える必要があったわけです。

 例えば下図のように4分音符がレガートやスタッカートになるためには、ゲートの立ち上がるタイミングは一定で、その後でゲートの電圧が下がるタイミングが遅ければレガートに、早ければスタッカートになります。

AnSeqGtTimeScore


 System-700 の VCO を LFO として使った時に、この一定間隔で立ち上がらなければならないはずのゲートのタイミングが狂ったために、リズムが狂ってしまったわけです。しかし、これは System-700 の設計思想の問題で、故障ではありません。これについて詳しく検討していきましょう。



🔴VCO の内部では、どのように矩形波/パルス波を作っているのか?

 まず最初に VCO の中でどのように矩形波パルス波を作っているかを考えてみましょう。VCO の波形を作る方法は色々とありますが、恐らく System-700 では三角波から矩形波やパルス波を作っているものと思われます。そしてこれが前回のリズム狂い問題の元凶と推察されます。

 では三角波の波形を見てみましょう。

Triangle

 三角波は音源として使用した場合には、倍音をわずかに含む柔らかい音色で、主に口笛の音のように、まろやかなサウンドを作る時に利用されます。また LFO として使用した場合にはビブラートモジュレーション源として使われる事の多い波形です。

三角波の音

三角波によるピッチモジュレーション

 この三角波から矩形波/パルス波を作る場合、コンパレーター(Comparator)と呼ばれる回路を利用します。コンパレーターは入力信号がある値(これをスレッショルド=Threshold レベルと呼んでいます)を超えると出力が突然高い状態(これを H の状態と呼びます)に、値より下がると出力が低い状態(これを L の状態と呼びます)になります。

 この動作を利用するとコンパレーターはスイッチのように利用したりする事ができます。例えば入力がスレッショルドレベルよりも上になると音色Aが選ばれ、下になると音色Bが選ばれるといった具合です。

 コンパレーターは VCO 等の内部で使われる回路ですが、単独のモジュールとして発売されていたりもします。その場合、名称はコンパレーターだったり、シグナルスイッチだったりと様々ですが動作の原理は同じで「入力信号がスレッショルドレベルより上ならアウトは H、下ならアウトは L になる」という単純なものです。

 下記の写真は Roland の System-100M173 Signal Gate ですが、これもコンパレーターの一種です。

M173SW




🔴コンパレーターを使ってみると:

 では三角波をコンパレーターに入れたらどうなるでしょうか?それを下図に示します。

TriSquare

 見れば分かるかと思いますが、入力に入って来た三角波の信号がスレッショルドレベルを超えるとアウトは H に、そうでなければアウトは L になり、これを繰り返します。するとアウトは H と L を繰り返す矩形波/パルス波の波形になるわけです。

 この時、スレッショルドレベルの高さが、三角波の高さの半分なら出力の波形は50%の比率で H と L を繰り返します。これが上図の矩形波になります。

三角波の音と矩形波の音を交互に聞く

 もし、スレッショルドレベルの高さが半分の位置にない場合、出力の波形は矩形波ではなく、非対称のパルス波となります。パルス波が時々「非対称矩形波」と呼ばれるのはこの理由によります。

 下図の例ではスレッショルドレベルが高い位置に設定されているため、出力されるパルス波の幅が狭くなっています。

TriPulse


 ここで、スレッショルドの高さを CV でコントロールできれば、CV の高低でパルスの幅を変える Pulse Width Modulation(PWM)の効果を作り出す事ができます。

矩形波の音とパルス波の音を交互に聞く


 スレッショルドレベルを CV で上下させてパルスの幅を変える原理を説明しているのが、動画の以下の部分です。




🔴System-700 の VCO で問題になる点とは?:

 さて、ここでシーケンサーのステップ送りのタイミング問題に話を戻してみましょう。


 System-700 の VCO は三角波からパルス波を作っていると書きました。これをオーディオ用に使う場合には全く問題ありませんが、タイミングコントロール用に使うと問題が起こります。

 この問題点を表したのが下図です。

TimingError 

 図を良く見ると分かると思いますが、三角波を1ステップ毎にスレッショルドレベルを変えながらコンパレーターに通すと、パルス波の立ち上がりの位置がまちまちになってしまいます。パルス波はゲート信号として使っているわけですから、当然リズムのタイミングも狂ってしまうというわけです。



🔴同じことが何故 System-100M では上手くいったのか?:

 ではなぜ System-100M の VCO では似たような事が上手くいったのでしょうか?

 恐らく 100M の VCO は矩形波/パルス波を作るのに、元の波形として三角波ではなく鋸歯状波を使っているのではないか?と推測できます。

 鋸歯状波は名前のごとくノコギリの歯のような形をしています(なのでノコギリ波とも言うし、英語だと Saw Tooth と言います<まんまです)。で、鋸歯状波には以下の図のように波の形が下に降りるタイプと、上に登るタイプがあり、降りるのを Down Saw、登るのを Up Saw と言っています(これもまんまです)。

 

UpSawDownSaw

 Up Saw は Down Saw のプラスマイナスの極性を上下反転させたものですが、オーディオ信号としては聞いただけでは Up Saw なのか Down Saw なのかは判別できません。

 しかし、これらを LFO として使った場合、例えばピッチモジュレーションに使うと、Down Saw ならピッチは下降を繰り返し、Up Saw なら上昇を繰り返します。


Down Saw を使ったピッチモジュレーション

Up Saw を使ったピッチモジュレーション

 


 System-100M の鋸歯状波は Down Saw タイプなのですが、これを三角波の時と同じようにコンパレーターに通し、スレッショルドレベルを1波形毎に切り替えたら、出力はどうなるでしょうか?

 それを図にすると以下のようになります。

SawtoothCorrectRhy

 これを動画で解説しているのが以下の部分です。

 三角波からゲートを作った時の図と見比べると分かるように、鋸歯状波でゲートタイムをコントロールする場合にはゲートが立ち上がるポイントが常に鋸歯状波の立ち上がるポイントと一致するため、リズムが狂わないわけです。